管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。
主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)
しばらく間が空きましたが、よりわかりやすくするために書き方を変えていくとか・・・
さっそく読んでみましょう!
合奏するためのスコアの読み方(37)
「ガクシキ(学指揮)」のための「ガクシキ(楽式)」論(2)
~はじめに~
前回のコラムから日にちが空いてしまいましたが、みなさんお元気ですか?
2020年の冬以降、部活動の長期休止や演奏会、吹奏楽コンクール等の中止など、今まで経験したことのない状況が続いています。主に吹奏楽部の学生指揮者(学指揮)として活動されている皆さんは、今日まで様々な試行錯誤をして、「自分たちの響き」を創造するための努力を続けていたのではないでしょうか。その努力と行動に対して、心から敬意を表したいと思います。
僕のコラムが学生指揮者の皆さんや、吹奏楽指導をされている先生方の役に立っていたかどうか、自分ではわかりません。その中で、内容がどんどん専門的になってきてしまい「こんなにたくさんの理論を身につけないといけないのか・・・」と諦めの境地に達した人がいたならば、それば僕の本意ではありません。
そのような思いから、これまでのコラムの内容を継続しながら、もう少しわかりやすい「入門的」なコラムにしていきたいと、コラム休載中に考えていました。音楽は楽しいものであること、それが一番大事です。
そのことを大切に考えながらも、これまで僕はこのコラムを書くにあたり、「指揮をする立場の人は、自分の感覚のみで音楽を楽しんでいるだけでは不十分なのではないか?」という考えのもとにコラムを執筆していました。そのため内容がどんどん深くなっていってしまったのだと思います。指揮や合奏をすることは容易ではなく、誰でも簡単にできるものではありません。ですが、学指揮ビギナーズのみなさんにとって、難しすぎて途中でリタイアすることのないようにしたいと考えました。そこで、装いを新たに「スーパー学指揮への道・シーズン2」を書いていこうという思いに至りました。
ということで、前回までのコラムに比べ、これからは雰囲気が大きく変わっていきますが、引き続きご愛顧よろしくお願いします。
題してプロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」present’s『オカヤン先生のスーパー学指揮ラボ』!
東京郊外、自然豊かな丘陵にある総合大学。その一角にあるオカヤン先生(僕のことです)の研究室で繰り広げられる、オカヤン先生と二人の学生たちによるゼミ形式のやりとりのなかで、学指揮に必要な音楽のことを学んでいきます。皆さんもゼミ生の一人になったつもりで授業を楽しんでください。
【登場人物】
・オカヤン先生(男性)・・・このラボ(研究室)の教授。プロの指揮者としてオーケストラや吹奏楽の指揮をしながら、悩める学生指揮者のためのゼミを開講している。
・野々花(ののか・女性)・・大学3年生(文学部)。大学吹奏楽部で学生指揮を担当している。作曲などにも関心を持っていて、音楽理論にも詳しい。音楽への情熱も人一倍強い。音楽に没頭するあまり、周りが見えなくなることも。彼女の所属している吹奏楽部は通常、4年生が正学生指揮を務めるが、ひとつ上の学生指揮者の先輩が退部したため、3年生から正学生指揮者を務めている。担当楽器は打楽器だが、必要に応じてピアノも担当する。部員には知られていないのだが、実はハープを演奏できる。
・隆(たかし・男性)・・・大学2年生(法学部)。野々花の後輩で、大学吹奏楽部では副学生指揮者として野々花と協力しながら活動している。音楽がとにかく大好きで、指揮することの魅力に取り憑かれている。野々花ほど音楽に詳しくはないが、人望が厚くみんなから慕われている。若い頃はサッカーを本格的にやっていたようなスポーツマンでもある。担当楽器は大柄な体格であることと、実は幼少期にヴァイオリンを習っていたという理由だけで、同じ弦楽器であるコントラバスを担当している。
彼らが所属している吹奏楽部は、演奏会やコンクールといった本番も学生が指揮を担当しており、オカヤン先生は直接彼らの吹奏楽部の活動には関わっていない。学生指揮者としての音楽作りや指揮法などについてのレッスンを受けようと、専門家であるオカヤン先生が開講するラボに参加することにした。
第1週・僕たち、一生懸命練習して頑張ったのに・・・足りなかったものは「愛」?
オカヤン先生:研究室にようこそ!二人とは面識はあったけど、こうやってじっくり話をする機会はなかったね。これからよろしくね!
二人:はい、こちらこそよろしくお願いします。
オカヤン先生:ところで・・・夏休みもそろそろ終わりが見えてきたね!ちゃんと自分の学部の勉強してるかな?計画的に勉強しないと僕みたいに大人になってから苦労するよ!(笑)
野々花:私は・・・ギリギリになって課題を一気に仕上げる感じなんです・・・それではダメですね!頑張ります。
隆:僕は頼もしい友人たちの助けを借りてなんとかできそうです。「持つべきものは友」です!(笑)
オカヤン先生:人それぞれだね。まぁ大学の勉強だけが全てではないから、色々なことを吸収して楽しく過ごして欲しいね。ところで君たちの部活、吹奏楽コンクールはもう終わったのかな?
野々花:はい、先日コンクールがありました・・・上位の大会に進むことはおろか、評価も芳しくなく・・・自分の力不足を痛感しています。
隆:野々花先輩、そんなに落ち込まないでくださいよ!結果は残念ですが、僕たちにやれることはやったと思いますし、自分たちの音楽に胸を張ろうではありませんか!
オカヤン先生:そうか。結果は少し残念なものだったのかもしれないけど、だからといってみんなの活動全てが否定されたわけではないよ。審査員も感情を持った人間なのだから「相性」が合う、合わないというものがあるからね。それだけ音楽は多様性があるということだよ。もし全ての団体が同じような演奏だったら、聴いていてワクワクするものになるのかな・・・。君たちも頑張ったけれど、他の団体はもっと頑張ったということ。ここは相手の健闘を讃えようじゃないか!
野々花:そうですね・・・私達は来年もチャンスがありますから、自分や自分たちに足りない部分を見つけて、それを克服してもっといい音楽ができるようにしていきたいと思います。先生、これからよろしくお願いします。
隆:それにしても、僕たちは音程合わせやリズム合わせ、ハーモニーについても細かく練習していたし、みんな個人練習やパート練習もしっかりして、楽器や合奏の先生もお呼びして強化していったのですけどね・・・
オカヤン先生:そうか。専門家を呼んだりして頑張ったんだね。予算も限られているなか、みんなには頭が下がるよ。それにしても・・・なぜ僕を呼んでくれなかったのかな!(笑)
隆:先生!先生を蔑ろにしていたわけではありません!先生はギャラが高額だと・・・先生はオーケストラの専門家なので、吹奏楽は指揮しないのではと思っていました。
オカヤン先生:高額かどうかは、一度話を聞いてから判断するものだろう?(笑)子供はあまり大人の事情は考えずに遠慮なく相談して欲しいな!お金はなくても「やる気がある」団体の力にはなりたいと思っているよ!あと、オーケストラも吹奏楽もどちらも指揮する。どちらも同じ「オーケストラ」だと思っているからね。どちらにも大きな可能性と魅力がある!
隆;僕も野々花先輩も、先生のコラムを読んで、スコアや音楽の理論についても学んでいました。僕には難しいことが多かったのですが、そのなかでいくつか「この曲のこの部分はコラムで取り上げていた!」と発見することもでき、理論と音楽が合致すると一気に理解が深まりました。もっとそれが自分たちの演奏に反映されるといいのですが・・・
オカヤン先生:自分でも「難しいかな」と思っていたんだ。でも読んでくれてありがとう!今までのコラムはいわば「基礎演習」のようなものだったけれど、これからはその基礎知識を活用して、それがどう音楽表現につながっていくのかをみんなで考えていこう。
野々花:私は他の部員よりはそのような知識はあると思っていましたが、その知識が十分に自分たちの演奏に活かされなかったような気がしています。
隆:野々花先輩の音楽の知識はすごいですよね・・・合奏で話すことも理論的で。僕たちも「へぇ~」と感心して合奏していました。先輩に僕が勝てるのはリフティングくらいかな・・・(笑)
野々花:でもそれが「演奏」に結びついていかないんですよ~。やっぱり理論よりセンスが大事なのかなぁ・・・。
オカヤン先生:それは違う。音楽の演奏にはセンスと理論の両面が必要だと思うよ。ただ、どちらかに偏ってしまってはいけない。バランス良く互いが影響し合い、「心地よいもの」として聴き手に伝わることが大事なんだ。
野々花:なるほど。頭ではわかっていても、なかなかそれが結果に現れないんです・・・
オカヤン先生:リズム・音程・ハーモニーという「音楽の三要素」については細かく、こだわって合奏していたとするならば、そのほかに足りないものが何かあるということだろうね。隆くん、なんだと思う?
隆:「やる気」とか?
オカヤン先生:そういう観念的なものではないと思うよ。まして「気合い」や「根性」ではない。野々花ちゃんはどう思う?
野々花;まさか・・・「愛」とか?
オカヤン先生:これはまたロマンティックな・・・。でもある意味では正解かもしれない。
野々花:どういうことでしょうか?
オカヤン先生: 音符や休符、ひとつひとつに対する「愛情」とでも言おうか・・・
野々花:私は音符ひとつひとつを蔑ろにして演奏したことはありません!
オカヤン先生:言葉が足りなかったかもしれないね。その「愛」を込めた音符たちや休符たちの「伝え方」が少し足りなかったのかもしれない。
野々花:「伝え方」・・・
オカヤン先生:音楽も文章と同じで、曲全体を小説に例えたら、曲の中がいくつかの「章」に分かれているし、それがまた「段落」や「文節」に分かれているね。そしてそれらはもっと細かくすると「単語」や「語」に細分化される。そのようにできている「文章」を、仮に誰かが朗読して他者に読み聞かせたとしよう。朗読の上手な人は、句読点や抑揚をその場面場面に合った「間」や語気の強弱などを使い分けて、わかりやすく、聞き手が話に引き込まれていくように語ると思うのだけど、音楽もそれと全く同じなんだ。みんなが楽曲に持っている「気持ちの伝え方」に工夫が足りなかったのかもしれないね。
野々花:その点にはあまり注意が向いていなかったような気がします・・・
オカヤン先生:だとするならば、野々花ちゃんほかみんなに足りなかったのは、そこだったのかもしれないね。これまでの「スーパー学指揮への道」で学んできた音程や和声の知識を活用しながら、これからの音楽表現をよりよくするために「音楽の形式」についてあらためて学んでいくことにしよう。「自分たちが伝えたいこと」が、聴き手に「共感されるような」音楽の喋り方や、ドラマやストーリーの語り方のヒントを学んでいこう。
二人:自分たちの音楽を、もっとたくさんの人に伝えられるようになりたいです!
オカヤン先生:その心意気だ!理論はややもすれば「難しい」だけになってしまうことが多いけど、できるだけわかりやすく学んでいこう。次回から本格的に講義に入るけど、次回の講座は前回のコラムで概要について触れた「動機(モティーフ)」について、もう一度おさらいしていくよ!時間があったら前回のコラムを「予習」しておいて欲しいな!
二人:はい!わかりました。
オカヤン先生:良い返事だね!期待しているよ。それでは今日はここまでにしようか。では、これからどうぞよろしく!
二人:よろしくお願いします!
(次回へ続く)
文:岡田友弘
※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。
以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。
それでは次回をお楽しみに!(これまでの連載はこちらから)
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岡田友弘氏プロフィール
写真:井村重人
1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。
これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。
彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。
日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。
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